『傀儡のマトリョーシカ』が4月30日頃に講談社ラノベ文庫より発行されます!

ゆっくりの価値

こんにちは! 河東遊民です。

今日は『ゆっくりの価値』という過去の記事の転載です……。

ゆっくりと言っても、潰れた饅頭みたいなキャラクターのことではない。これを知っている人も少ないかもしれない。ニコニコ動画で一時的に流行した、謎のキャラクターである。今回は、その話ではないので、これまで書いた文章は忘れて欲しい(なぜ書いたのか?)。

ゆっくりというのは、スローである。スローフード運動(slow movement)という言葉も流行った(どこで?)。ファストフード(fast food)の逆である。日本ではスローライフとかいう言葉も流行ったかもしれない。ラノベでも、異世界スローライフもの、というジャンルがあるらしい(読んだことはないので、本当にあるのかは知らない)。

僕は幼い頃から、とにかく、物事をゆっくりできないやつだった。思考が速いから、何をやっても遅く感じられる。文字は、速く、汚い。歩くのは時間の無駄だと思っていたので、子供の頃、学校への行き帰りとか、遊びに行くときは常に走っていた(バカである)。読書も速い。ひたすら読んで、次へ次へと読んでいた。ゲームも同じ。さっと攻略して次のゲームへ進む、ということばかりをしていた。そもそも、ゲームをするときもロード時間にいらいらする。その間に漫画を読んでおいて、ロードが終わったらゲームを再開する、みたいなこともやっていた。音楽も、テンポの速いロックが好きで、バラードとか聴いていられなかった。最終的には、そういうテンポの遅い曲は、winampというソフトで(懐かしいなぁ……)スピードを2倍にして聴いていた。すると、ほとんどの曲がロックみたいな感じになって、素晴らしいじゃないか、と思った。あとは、アニメも字幕のあるものは、録画したあと、2倍速で見ていた。そのほうが時間の短縮になって良いと思っていたからだ。

さて、いつの頃からだろう。僕は、急ぐのをやめた。たぶん、頭が悪くなったのだと思う。思考の速度が落ちた。いまではもう、走らない。早歩きすらしない。歩行者用の青信号が点滅していたら止まる。それどころか、そろそろ点滅しそうだな、と思ったところで止まったりもする。必然的に、どれだけゆっくり歩いても間に合うように家を出るようになった。

音楽を、ゆっくり聴くようになった。何かをしながら、ではない。窓の外を見て、ぼんやりとしながら、音を楽しむ。ゆっくりと本を読む。大体、本の厚さにもよるけれど、1冊を読み終えるのに、1週間から2週間くらい掛かる。のんびり掃除をする。たまに、焦りそうになるけれど、自分に焦らない、焦らない、と言い聞かせる。失敗したときほど、落ち着いて、ゆっくり作業をする。

子供の頃に読んだ小説や漫画のことを、何一つ思い出せない。速すぎて、全部忘れてしまったのだと思う。でも、ゆっくり読むようになってから読んだ本の内容は、忘れない。いまでもずっと覚えている。どれくらいゆっくりかというと、声に出して読むくらいゆっくりだ。

そういえば、最初に小説を読んだときも、いまと同じくらいゆっくりだったな、と思う。いまでも覚えている。青い鳥文庫のパスワードシリーズだった。学校の図書館で借りてきて、1週間とか、2週間とか掛けて読んだ。知らない単語も多いから、辞書を引いて読む。結局、辞書を引いても意味がわからないから、親にきいて読む。知らない漢字は、何度も声に出した。そういう風にして、ゆっくり読んだ。その本の内容は、いまでも克明に覚えている。

皆にも、ゆっくり読んだら、と勧めたりはしない。これは、僕が発見した、僕の楽しみ方だからだ。一度でもゆっくりの楽しさを知ったら、もう、小説を昔のように読み飛ばせなくなる。それくらい中毒性が高い読み方だ。危険だとも言える。小説の消費量が減ってしまうから、書店が潰れたりするだろう。だから、滅茶苦茶楽しいけれど、業界が潰れたら元も子もないので、ゆっくりの読書は、秘密に、こっそり楽しんだほうが良い。でも、本当に面白いから、極々少数の人には知ってもらえたら良いかな、と思って、ここに書いてみた。

そんなスローになった僕だが、いまだにゆっくりできないことがある。それはタイピングだ。これだけは遅くするのが難しい。他の人たちよりも、かなり速いスピードで打てると思う。1秒間に10回くらいキーを打つ。でも、そもそも僕は、自分のタイピングを速いと思ったことはない。随分頭が悪くなったとはいえ、いまでも思考のほうがタイピングよりも速い。僕にとってタイピングとは、思考を出力する装置としては、遅いものなのだ。ちなみに口も、思考に比べたら遅い。言いたいことがたくさんあるので、一度に言おうとして、複合しておかしなことになる(それでも、親しい人にはなんとなく伝わるみたいだ)。

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